【レビュー】岡本太郎の「自分の中に毒を持て」昔より今のほうが切実に理解できる

【レビュー】岡本太郎の「自分の中に毒を持て」昔より今のほうが切実に理解できる

岡本太郎の「自分の中に毒を持て」を久しぶりに読んだ。

初めて読んだのは十代後半ごろ…あまり覚えてないけど、もしかしたら20歳すぎていたかもしれない。当時、ものすごく熱中した覚えがある。20年ぶりに読み返して思ったけど、この本には人が生きる本筋みたいなものが書いてある。始めから終わりまで、ここまで人の心のど真ん中をえぐった本がほかにあるんだろうか。

昔はインパクトに囚われて主張の本筋がわからなかった

岡本太郎って本当にすごい人だってことがわかった。20歳前後の頃は多分、著者のすごさの100分の1もわかってなかったんじゃないかと思う。

最初はとにかく衝撃を受けた。岡本太郎の迫力に圧倒されたし、力強く言い切る文章に、崖のフチから引っ張り上げられたような安堵感も覚えた。文章の所々に垣間見える、深い人間愛にも泣きそうにもなった。

「それでいいんだ」と言われていると同時に「もっとだ、もっと自分をひらかなきゃダメだ」と叱咤されているようにも感じて。とにかくすごい衝撃だった。

でも、当時の私が感じられたのはここまで。それ以上の何かをこの本から見出すことはできなかった。それから数年経って、やりたいことを思いっきりやる人生を選んで、でもうまくやれなくて、生きるのが嫌になって。

「岡本太郎はあんなこと言ってたけど、結局あれって岡本太郎本人がお金持ちの子だから、思い切ったことが言えたんだよ」と恨めしく感じたこともある。私は現実に打ちのめされて、岡本太郎の主張から離れた。

芸術との対峙は背伸びすること。この本も背伸びしなきゃ読めなかった

著書の中で「芸術と対峙するとき、鑑賞者は背伸びを強要される。芸術と自分との距離は絶望的なほどで、いくら背伸びをしても間に合わない」といった意味の記述がある。

当時も今も、本を読んでいるまさしくその最中に、私は本との絶望的な距離を感じていた。10代、20代の頃はいくら背伸びをしてもまったく届かなかった。土踏まずがつるくらいつま先立ちをしても、力いっぱいジャンプをしても、指の先がかすめる程度。手を伸ばしてもホントに遠くて、せいぜい文章の迫力とか言葉のインパクトに目を向けるのが精一杯だった。

今なら、書いてあることの意味が少しはわかる。

生きてて息苦しいのは自分をひらいて生きていないから

どうして人生行き詰まるのか、息苦しいのか。今はスマホがあってネットがあってすごく便利なのに、世の中はストレスで溢れてる。多くの人は苦しくてアップアップしてて、その場で右往左往しながら立ち止まって動けない。

この本を読むと、ああもっともだなと思う。だって、自分をひらいて生きてないから。

ともすると、自分をひらいて生きることは許されないんじゃないかと思いがちだ。でも、本当は自分の命を爆発させている人のほうが、生き生きしていて挑戦的だ。生きたいように生きるのはダメ、自分勝手、てかそんなの無理!と思い込まされているだけで、本当は誰もが自由に生きたいはずだし、生きられるはず。

最近、SNS界隈で「人のためになることを発信する」って内容をよく見かける。私の職業はWebライターなので、「人のためになる文章」を求められる。確かにそれはその通りで否定の余地はない。ただ、人生の主導権を自分で握っている人でなければ、本当の意味で「人のため」になることなんてできないんじゃないのかなとも思うのだ。

子育てでも、細かく注意してしつけをするより、お母さんがニコニコ笑って幸せそうにしている方が、子どもは明るくのびのび育つと聞く。あれこれ言うより、親の背中を見たほうが早いし説得力もある。

人のためって決して自分を犠牲にすることではないし、そもそも人のためになるってものすごく責任が伴うこと。まずは、他人より自分自身を叱咤激励して救ってあげないといけないんじゃないだろうか。たとえ順風満帆な人生でも、自分と対峙し続けていないと、多分、人のためになんてなれない。

思い入れのある本との関係って、結婚と離婚を繰り返す男女みたい

この本を読み返して本当に良かった。最初に読んでから20年、この本の内容がやっと少し理解できた。

個人的に、人生で一番つらかったのが30代の頃。岡本太郎の主張から目を背けていた時期だ。10代後半に出会って20代で夢中になって、30代で嫌になって、40代で再会して思い直す。やっぱり好きだなと思う。

それにしても、思い入れのある本と読者の関係って、結婚と離婚を繰り返す男女みたいだ。本の主張に惹かれたり共感したり反発したり、難しすぎて理解できなかったり。これからも四苦八苦しながら、この本と別れたりよりを戻したりするんだろうか。

「自分の中に毒を持て」は、生活に行き詰まっているとき、不安なとき、逃げ出したいときに勇気をくれる。どうしていいかわからず迷子になっても、行くべき方向について考えるきっかけをくれる本だ。

今よりも年齢を重ねたら、さらにいろんなことを教えてくれるのかもしれない。


自分の中に毒を持て(文) (青春文庫)
岡本 太郎 (著)
亡くなる3年前に書かれたとのこと。老齢で書いたとは思えない、力強さのある本です。

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